開発経済論中間試験回答例
聖心女子大学国際交流学科
2024年秋学期
1 ジェンダー教育実験
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U.S. News & World Report Magazine/Library of Congress, Washington, D.C. (digital. id. ppmsca 03425)
世界銀行では、イスラム教信者の多い国でジェンダー教育を進めました。イスラム教徒が大半を占める国では、女性と男性の権利が著しく不平等だからです。とあるプログラムでは、高位のイマム(聖職者)が各モスクに所属している信者向けに「ジェンダー教育に参加するように」というテキスト・メッセージを(ショート・メッセージ・サービスSMSで)送りました。
- イマムがテキスト・メッセージを送ることの効果(男女の就学率への効果とします)を計測するには、どのような実験が必要でしょうか。
- 実験前に全国の家計から就学情報を得る
- 治療群=テキスト・メッセージを受け取る信者たち
- 統御群=テキスト・メッセージを受け取らない信者たち
- 対象者のうち、ランダムに都市・地域を治療群に割り当て、それ以外の都市・地域を統御群に割り当てる
- 別の都市・地域にするのは、統御群に治療の波及効果が及ばないようにするため
- 実験後に全国の家計から就学情報を得る
- 女性権利擁護のプログラムやイベントは、以下のa.とb.では効果が違うかもしれません。a.とb.の効果の違いを計測するには、どのような実験デザインにすべきでしょうか。
- 女性だけを対象にして実施するとき
- 男女を対象にするとき
- 治療群をaとbにランダムに分ける
- 治療群a=テキスト・メッセージを受け取る信者たちのうち女性のみ
- 治療群b=テキスト・メッセージを受け取る信者たちのうち男女両方(平均して半々になるようにする)
- その他は上記実験と同じ
- あなたの考えた実験デザインでは、a.とb.のどちらの効果がより大きくなるか、予想できるでしょうか
- できる、できない、のいずれかを選び、その根拠を述べてください
- c.での回答を前提に、この政策を実験することの意義を考察してください
- 下記のように逆方向の要因が想像できるので、予測できない
- aの方が大きい要因: 男性に知られない方がモスクでのジェンダー教育を女性が気兼ねなく受けられる
- bの方が大きい要因: 男性も教育を受けるため、理解を得やすくなる
- 効果の方向性を予測できないため、どうなるのか確かめる意義が実験にはある
2 09回講義へのRP
Photo by Shuvaev, 2015, CC-BY-SA4.0
テイラー・スウィフトの日本ツアー経済効果はどのようにして計測できるでしょうか。以下の問いに答えながら、最後の問いでどのように計測するか答えてください。
- 通常は(ツアーによる)支出拡大を経済効果といいます。つまり、ツアーありのときの支出-ツアー無しのときの支出、が経済効果です。どのようなデータ(支出項目)を使うべきでしょうか。どのようなデータがどのくらいの頻度で公開されているのか調べて支出項目を挙げてください。
- 月次家計調査(家計収支編総世帯詳細結果表)、項目730(鉄道運賃)、737(航空運賃)、882(映画・演劇等入場料)、9.4.1(宿泊料)
- Bloombergによると、東京都市大学の江頭氏の推計では「チケット、グッズ、観光消費、事業費などを含めて算出した」そうです。原典を調べると、同氏が代表の世界スポーツ支援開発機構一般社団法人OASISジャパンが計算した内訳は、直接効果(来場者支出や公演事業費など)+波及効果(産業連関表を用いて計算)です。つまり、効果を計算する上で、CF=ゼロ円、と想定しています。このCFの現実妥当性を述べてください。内訳にある計算内容でほかにも改善点があれば挙げてください。
- CF=0は極端な仮定で現実妥当性が低いです。公演がなければ、来客者の教養娯楽支出および旅行支出がゼロという想定だからです。似たような年齢と家計構成でのこうした支出の平均値を想定すべきだと思います。
- 改善点は下記。これらを修正すれば、内訳で示された「経済効果」は少なくとも2-3割は減ると思います。
- 来場者支出のチケット支払いは公演事業費と二重カウントになっている可能性があります。公演者への事業支出(40億円)はチケット販売収入(54億円)から賄っている部分もあるからです。
- 公演事業支出はテイラー・スウィフトとその関係者に支払われます。国内事業者を除くと、公演というサービスはサービス輸入として分類され、その代金の多くが海外で支出されるでしょう。そのお金は最終的に海外の事業者の財・サービスに使われるので、日本での経済効果に含めるのは不適切です。
- テイラー・スウィフトほど観客動員力のあるアーティストは、公演をした地域以外でも支出に影響を与えます。1効果推計では、波及効果が及ぶ範囲すべてを含めるように治療群(treatment unit)を定義すべきだ、という考え方があります。2この例では、波及効果が及ぶ都道府県全てを治療群にする、という考え方です。仮に、テイラー・スウィフト公演という治療を受けるのが日本全体だとすると、効果推計にとってどのような難点がありますか。
1 東京ドームで公演すると泊まりがけで来る福島県民の支出が高まる、などです。その前後で支出を控えるなどの影響もあるかもしれません。
2 Stable unit treatment value assumption (SUTVA)と言います。東京公演は東京への影響が最大のはずですが、福島県も影響を受けます。この県は影響を受けないと言い切れないので、SUTVAを満たすように治療群を定義すると、全都道府県への影響を合計した支出額合計を考える、ということになります。
- 統御群がいない。よって、国内からCFを作るのが困難になる。
- あなたならば、どのような方法で経済効果を推計しますか。どのようにしてCFを得るのか明示して答えてください。
- テイラー・スウィフトがツアーをしなかった国をドナー・プールにしたSCM
- 日本と途上国は支出のパタンが違うので、日本と同等かそれ以上の所得の国をドナー・プールに限定すると近似の精度が高まると期待できる。
- 合成日本のウェイトを得るため、月次の娯楽や交通宿泊に関する家計消費額を過去に遡って入手し、日本の値との2乗和を最小化するようにウェイトを選ぶ。個別の品目ではなく、娯楽遊興費、交通宿泊費などの大分類を使い、過去に遡ることを優先してデータを準備する。
- 注意点: テイラー・スウィフト公演の経済効果が十分に大きくない限り、家計消費額が大きく変動せず、効果が検知できない
- 仮に350億円だとしても、日本国民1人あたり約320円なので、合成日本消費の誤差の範囲内におそらく留まることから、効果が検知できるとは思えない
- 遠隔県からは来ない、来ても少ない=正の波及効果はゼロと仮定し、治療群を東京都のみ、遠隔県をドナー・プールとしたSCM
- 東京への効果のみに限定されるが、国単位で効果を薄くのばして計測するよりも効果が大きいために、検定力statistical powerが高まる
- 仮に都民しかコンサートに来ず、販売額を50億円だとすると、都民人口1400万人なので都民1人あたり357円、都民成人2人の毎月の映画・演劇鑑賞支出500-900円と匹敵する
- 都民率が30%でも都民成人2人の毎月の映画・演劇鑑賞支出の30%なので、何らかの効果を検知できる可能性がある
- 僅かながらでも正の波及効果があるはずなので、得られた値は過小推計
- 東京への効果のみに限定されるが、国単位で効果を薄くのばして計測するよりも効果が大きいために、検定力statistical powerが高まる
- 2つ方法に共通する欠点は、テイラー・スウィフトが東京公演を1ヶ月(2024年2月7日-2月10日)しかしなかったために、効果を観測できる期間が1ヶ月のみであること
- 全米ツアーならば数ヶ月に及ぶはずなので、効果観測できる期間が増える
- :労働生産性
3 :x LProd
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